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東京家庭裁判所 昭和41年(家イ)1363号 審判 1966年4月09日

本籍 東京都 住所 東京都

申立人 川井茂子(仮名)

国籍 アメリカ合衆国バージニア州 住所 本籍に同じ

相手方 山田はなことハナ・スチーブンス(仮名) 外二名

主文

相手方山田はなことハナ・スチーブンスと相手方川井弘子、相手方川井正との間にそれぞれ母子関係が存在しないことを確認する。

理由

一  申立人は、主文と同旨の審判を求め、その事由として述べるところの要旨は、

(一)  相手方川井弘子、相手方川井正は、いずれも戸籍上、川井良夫と相手方山田はなことハナ・スチーブンスとのの間の子として記載されているが、真実はいずれも川井良夫と申立人との間の子であつて、相手方山田はなことハナ・スチーブンスは相手方川井弘子および相手方川井正の母親ではない。

(二)  すなわち、川井良夫は、相手方山田はなことハナ・スチーブンスと昭和八年頃挙式のうえ同棲し、昭和九年七月二七日正式に婚姻届出を了し、その間に昭和九年七月二五日長男則三を、昭和一一年三月三日長女安子をそれぞれ儲けたのであるが、昭和一九年一月頃同相手方と協議のうえ離婚することとなり、同相手方は東京都目黒区緑ケ丘の実家に戻つた。

(三)  その後右川井良夫は、昭和一九年三月頃右相手方の妹である申立人と挙式のうえ同棲し、その間に昭和二〇年三月一七日相手方川井弘子を、昭和二一年一一月一八日相手方川井正をそれぞれ儲けたのであるが、各出生届については、いずれも知人に依頼したところ、その当時未だ先妻の相手方山田はなことハナ・スチーブンスとの間の協議離婚届を了していなかつたため、右依頼を受けた知人が、各庶子出生届をすべきところを誤つていずれも右相手方山田はなことハナ・スチーブンスとの間の嫡出子として出生届をなしたものである。

(四)  右川井良夫はその後昭和二一年一二月一日正式に相手方山田はなことハナ・スチーブンスとの協議離婚届出を了した後、昭和二一年一二月一三日正式に申立人との婚姻届出を了した。

(五)  申立人は、前記の如き事情で戸籍に誤つた記載がなされているので、もつと早くこの記載を訂正するため申立をすべきであつたが、相手方山田はなことハナ・スチーブンスが、一九五〇年(昭和二五年)九月九日アメリカ合衆国人チャールス・ビー・スチーブンス・ジユニアと挙式のうえ同棲し、一九五一年(昭和二六年)二月一七日アメリカ合衆国大使館に同人との婚姻登録をし、かつ、東京都中央区長に対し同人との婚姻届出を了し、一九五三年(昭和二八年)六月二二日同人とともに、アメリカ合衆国に渡り、肩書住所に居住することとなつたため、申立をすることができなかつたのである。

(六)  その後右相手方は一九五九年(昭和三四年)一二月二二日アメリカ合衆国の国籍を取得したため、日本国籍を喪失したのであるが、たまたま一九六六年(昭和四一年)一月一九日親族訪問のため、日本に帰り、しばらく滞在することとなつたのでこの機会に右の如き誤つた戸籍の記載を訂正し、将来の相続等についても問題が生じないようにするため、本申立に及んだ

というにある。

二  本件につき、昭和四一年四月九日に開かれた調停委員会の調停において、相手方山田はなことハナ・スチーブンスと相手方川井弘子、相手方川井正との間にそれぞれ母子関係が存在しないことを確認することにつき、当事者間に合意が成立し、かつ、その原因についても争いがないので、当裁判所は、本件記録添付の各戸籍謄本並びに申立人、相手方山田はなことハナ・スチーブンスおよび参考人川井良夫に対する各審問によつて、必要な事実を調査したところ、申立人の主張する一の(一)ないし(六)の記載どおりの事実をすべて認めることができる。

三  さて、まず、本件において、申立人、相手方川井弘子および川井正はいずれも日本人であるが、相手方山田はなことハナ・スチーブンスはアメリカ合衆国人であつて、一時日本に滞在するに過ぎず、日本に住所を有していないのであるから、わが国の裁判所が裁判管轄権を有するか否か疑問がある。しかしながら、同相手方は、日本に住所を有する申立人の本件申立に応じて調停期日に出頭し、合意をしているのであるから、わが国の裁判所が本件につき裁判権を有し、かつ、当家庭裁判所が管轄権を有するものと解して差し支えないと解せられる。

四  そこで本件の準拠法について考察するに、本件は、夫が妻以外の女との間に儲けた子につき本来庶子出生届をすべきところを妻との間に嫡出子が出生したとの虚偽の出生届出をしたため、わが国の戸籍に、夫婦の間の嫡出子と記載されている場合に、その表見上のアメリカ合衆国人の母(妻)と日本人の子との間に母子関係が存在せず、したがつてその子が庶子であつて嫡出子でない(その後夫と実母との婚姻により準正嫡出子となつている。)ことを確認することを求めるものであるが、かかる場合の準拠法については、法例に直接の規定はないが、法例第一七条および第一八条第一項の規定の類推適用により、子である相手方川井弘子、相手方川井正については日本法、表見上の母である相手方山田はなことハナ・スチーブンスについてはアメリカ合衆国バージニア州法を準拠法とみるのが相当である。

五  ところで、一般にアメリカ法では、親子関係の存否については、扶養、相続など個々の問題となる法律関係ごとに先決問題として当然にこれを争いうるとなし(個別的証明主義)、日本法の如く親子関係の存否を確定するのに特別の手続(包括一元主義)を要しないとされており、バージニア州法においても同様であると解されるのであるが、本件については法廷地法であるわが国の手続法との関係において、修正を受け、包括一元的に母子関係不存在確認をなすことが許されるものと解するのが相当である。

よつて、相手方山田はなことハナ・スチーブンスと相手方川井弘子、相手方川井正との間にそれぞれ母子関係が存在しないことを確認する旨の当事者間の合意は真実に合致し、正当なものと認められるから、当裁判所は調停委員上田寿、同案田スヤの意見を聴いたうえ、家事審判法第二三条により、主文のとおり審判する次第である。

(家事審判官 沼辺愛一)

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